配偶者手当による不合理。廃止や見直しをする企業・自治体も。

配偶者手当による不合理。廃止や見直しをする企業・自治体も。

「これ以上に働くと損をしてしまう…」

そんな声が弊社の女性スタッフから上がってきたことが、この記事を書くキッカケになりました。その背景には企業から支給される「配偶者手当」があるようです。

こんにちは。株式会社はたらクリエイト代表の井上拓磨です。
今回は、解決したい社会課題について書いてみようと思います。テーマは「配偶者手当によって発生する不合理」です。

仕事量をセーブせざるを得ないスタッフが出てきた

上田オフィスの様子

弊社、はたらクリエイトには、パートタイマーとして雇用契約を結んでいる女性スタッフが約100名いるのですが、「もっと働きたい」という本人の意志に反して、仕事量をセーブするスタッフが出てきています。どのような経緯でその結論に至ったのかをヒアリングしてみたところ、、

「自身の年収が103万円を超えてしまうと、旦那さんが勤める会社からの配偶者手当が出なくなってしまう」

「収入が130万円を超えると被扶養者から外れ、自分で健康保険などに加入しなければならなくなる」

といった内容でした。つまり、これ以上稼いでしまうと逆に損をしてしまうのです。
なぜこのような課題が発生しているのでしょう。

・この課題に関わる社会的背景
・そもそも配偶者手当とは何なのか
・手当として支給される金額はいくらなのか
・仕事量をセーブしている人はどの程度いるのか

まずは、事実の整理からしてみることにしました。

この課題に関連する社会的背景

仕事をするスタッフ

働く女性の増加

2012年から2016年にかけて、就業者数は170万人増加しているのですが、その内訳を見ると147万人が女性です。その背景にあるのは、国が推し進める「仕事と育児等との両立支援」だけでなく、「女性が働くことに対する社会全体の意識変化」があると考えられます。

控除を受けられる上限額が大幅拡張(103→150万円)

2018年より、税制改正のため「配偶者特別控除」の仕組みが変更されました。改正により、38万円の控除を受けられる配偶者の年収の上限が103万円から150万円に拡充され、女性が働きやすい環境が整ってきています。

今回は、社会的な大きな流れを2つに絞って紹介しましたが、今後も働く女性が増え、それをフォローする環境整備が進んでいくことが想定されます。

配偶者手当に関する基礎情報

配偶者手当は家族手当の一種

配偶者手当とは、企業が従業員に対して支給する「家族手当」の一つで、それぞれの企業が独自で定める法定外福利厚生です。目的は主に「従業員の配偶者の生活を支援すること」で、基本給とは別に支給されます。家族手当にも様々な種類があり、扶養家族に限定した扶養手当、配偶者に限定した配偶者手当など、その呼び方は企業によって異なります。

家族手当支給の傾向

従業員の多い企業ほど支給条件が厳しい

多くの企業では、配偶者の収入による家族手当の支給制限があります。「配偶者に一定以上の収入があると家族手当を支給しない」という制限ですが、その基準となる金額は主に3つあり、企業によって基準が異なります。

■家族手当支給の基準となる金額
・103万円:それ以上の収入を得ると、配偶者控除から外れる。所得税がかかる。
・130万円:それ以上の収入を得ると、社会保険の扶養から外れる。
・150万円:それ以上の収入を得ると、配偶者特別控除からはずれる

人事院の資料をもとに、基準となる金額の傾向をまとめると、従業員の多い企業ほど基準金額が低いことがわかりました。103万円を基準とする企業は、500人以上の企業では54%、50~99人の企業では46%が該当し、8%の差があります。

従業員の多い企業ほど手当の支給金額は大きい

厚生労働省の資料によると、企業規模によって支給される家族手当の金額が異なることがわかります。年間の支給金額は、1,000人以上の企業だと平均260,052円、30~99人の企業だと平均146,160円で、年間で10万円以上の差があります。

従業員数ごとの家族手当のグラフ

以上のことより、「従業員の多い企業ほど支給条件は厳しいが、支給される金額は大きくなる」という傾向があることがわかりました。違う視点から見ると、従業員の多い企業に勤める配偶者を持つ人ほど、本人の働く時間が制限されやすい状況になっているとも言えそうです。

配偶者手当により生じている就業調整

では実際にどの程度の人が就業調整を行っているのでしょうか。厚生労働省によるパートタイム労働者を対象にした調査を参考に、実態を把握していきます。

配偶者のいる女性のうち就業調整をしているは23.6%

まずは、就業調整をしている人の割合です。パート契約をしている配偶者のいる女性の23.6%が、就業時間を減らしていることがわかりました。

就業調整をしている割合

「配偶者手当がもらえなくなる」を理由に就業調整しているのは23.9%

次に就業調整をしている理由です。配偶者のいるパート契約の女性の23.9%が「配偶者手当がもらえなくなる」ことを理由に就業時間を減らしていることがわかります。これは就業時間を調整する理由の4位に該当します。

就業調整をしている理由

グラフでは上位7位までの理由を記載しましたが、4位(配偶者手当がもらえなくなる)以外は、税制や社会保障など国の制度に関わることです。つまり民間企業がコントロールできることに限定すると、「配偶者手当がもらえなくなる」ことが大きなウェイトを占めていることになります。

配偶者手当を見直しを検討する企業が約30%に。廃止した企業も。

配偶者手当の制度そのものを見直す企業も増えてきています。人事院による調査では「見直し予定・見直しを検討している企業」も年々増加している傾向にあり、平成30年の調査では、30%弱の会社で家族手当の見直しが検討されています。

家族手当の支給状況の推移

社会変動に対して敏感な企業やモデルとなる行政は、既に検討を終えて廃止を実行しています。

実際に廃止した企業の代表例として、トヨタ自動車が挙げられます。トヨタ自動車は、月額19,500円だった「配偶者手当」を2021年までに廃止し、その代わりに「子ども手当」を1人当たり月額5,000円から一律月額20,000円としました。

また、国家公務員も2017年から段階的にを減額し、一方で扶養する子どもがいる職員への手当を拡充させています。

(一方的にの廃止のみを行い、従業員にとって不利な給与体系となる場合、労働契約法に反する可能性が出てくるので注意が必要です。)

配偶者手当は時代遅れの制度になりつつある

母親と子ども

ここまで情報の整理を行ってきましたが、現代の共働き夫婦の増加や人口減少による働き手の減少などを念頭に置くと、配偶者手当は現状に即していない福利厚生になっていることがわかるかと思います。

私たちは、自社の従業員のことだけでなく、社会全体をどうしていくのかを考えないといけません。企業の自社の従業員に対する福利厚生で、その配偶者が働き方を制限してしまうのは非常にもったいないことです。

また、記事の冒頭に出てきた弊社スタッフのように、働きたいという女性の意欲が、夫の会社の福利厚生で抑制されてしまうのは大きな課題です。キャリアを積み上げていく機会の損失とも言えるでしょう。

今後私たちは、女性のキャリアステップを描きやすい職場を築くだけでなく、当然のことながら給与や待遇も上げていく予定です。

配偶者手当について、読者の皆さんへのご提案

井上さん

読者の皆さん、所属する会社のは、どのような設定になっているでしょうか。その昔に設けられたに縛られ、前進しようとしている社会にブレーキをかけていないか、今一度考えてみて欲しいのです。

今までずっと存在していた制度を変えることは、組織が大きいほど労力を要することも理解していますが、企業独自の制度であるため変えやすいことも事実です。

自社の従業員のためだけではなく、社会全体を捉えて柔軟かつ迅速に変化していける企業こそが、従業員にとっても働きやすい企業であると考えています。

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